3.03.2013

2. Viola Tenore(ヴィオラ・テノーレ)


haja&Chi
イタリア ヴァイオリン チェロ 作家
永石勇人 清水ちひろ


 さて、今回はただいま制作中のヴィオラ・テノーレについてです。

 現代のヴィオラはかなりスタンダード化が進み調弦(CGDA)は固定、そしてサイズも小さいものでも箱39cm大きくても43cmと違和感のない大きさに落ち着いたように思います。
 ところが元々意図して作られたこの種の楽器は最大48cm(70cmを超えるものもあるという記事もみましたが・・これはヴィオロンチェレットとでもよべるような)ものまで存在した音優先の楽器でした。箱48cmですと最も小さいチェロ(45.8cm)よりも大きい事になります。



Viola Tenore Andrea Amati(1564)
出典:musical instruments in the ashmolean museum 

1600年代ヴィオラは3つのスタンダードがあったようです。


●現代のヴィオラに近いヴィオラ・コントラルト(CGDA)
●高いヴィオラ・テノーレ(CGDA)
●低いヴィオラ・テノーレ(FCGD又はGDAE)

 ヴィオラ・テノーレはトレッリやコレッリを代表するように17世紀にはままあるパートだったようです。本来同じ音域であるのに味の違う音を求めクゥアルテットやクゥインテットに盛り込んだ音への執着はバロック期ならではの感性ではないでしょうか。




Gasparo da Salo'
出典:M.I Ashmolean Museum



 1500年代ヴィオラに名器の多いガスパロ・ダ・サロも小さいもので箱39cmのヴィオラを残していますが、それとは別に箱45cm以上のヴィオラ・テノーレと呼ぶべき楽器も残しています。
もちろんクレモナ派もヴィオラ・テノーレを手がけてきましたが、1700年に入りほぼ作られなくなってしまったようです。






 現存するヴィオラ・テノーレは有名どころではアマティの他ヤコブ・シュタイナー、アンドレア・グァルネリ、そしてストラディヴァリのものでしょう。そしてその多くが保存状態が良い事にあります。

 ヴィオラ・テノーレはその大きさ故に1800年代に現代向けにとネックを切り取られずに手つかずのまま残っているものが多く博物館にそのまま保管されています。これは当時の楽器を知る上で最重要資料になり、先人達のイメージをダイレクトに感じる事が出来ます。

 

Antonio Stradivari(1690)
出典:strumenti di Antonio Stradivari



 特にストラディヴァリのヴィオラ・テノーレは1690年前後にトスカーナ公国のフェルディナンド・メディチのためにつくられた気合いの入った作品で、年代から見ても彼本人が制作している可能性が高く、昨年度話題になったヴァイオリン”レディー・ブラン”やイギリスにある”メシア”よりさらに完全な姿で生き残っています。指板の下に薄いクサビが入れられたもののペグ、テールピース、指板、バスバー、駒・・全てのパーツが323年たった今もそっくりそのまま付いて残っています。面取りの黒縁、ニスの摩耗やコーティングもほぼなくタイムカプセルに入れられた様な楽器です。メディチの人が練習をしなかったおかげです。

 これはソプラノ(ヴァイオリン)2本、ヴィオラ・コントラルト、ヴィオラ・テノーレ、バッソ・ディ・ヴィオロン(チェロ)構成のクゥインテットの一つとして制作され、うち2本はフィレンツェのミケランジェロのダヴィデに向かって右側の部屋に展示されています。
 
箱の上下を改造され普通のヴィオラ
サイズ(415mm)にされた小さく
なったヴィオラ・テノーレ


Antonio e Girolamo Amati(1595)

出典:il DNA degli Amati




 ブラザー・アマティは小さめのヴィオラ・テノーレをいくつか制作したようですが、19世紀に箱を切って小さくされて今では普通のヴィオラとして弾かれています。ヴィオラの頭が大きすぎ、プロポーションがおかしくなっているものが多いはずです。
 また多くのヴィオラとくにヴィオラ・テノーレに見られるペグボックスの段差は1600年代後半まで巻き線が普及せずペグに巻いた時点でかなりのボリュームになってしまっていたためです。特に裸ガットのCG線の太さは2mmを軽く超え、当時長めに作られたガット弦はペグボックスより外に飛び出すように束ねられることも多くこれをスムーズに入れるためにチェロの様なヘッドが好んで作られていたようです。

 







 

 下のシルエットはヴァイオリン、ヴィオラ、テノーレの大きさを比べてみたのもです。



ヴァイオリン(355mm) ヴィオラ(415mm) Vlaテノーレ”アマティ”(469mm) Vlaテノーレ”ストラディヴァリ(475mm)




 そして近年このヴィオラ・テノーレをヴィオラ・プロフォンダとしてプロデュースしている作曲家や演奏家がいるようです。楽器自体は”低いテノーレ”の調弦(FCGDまたはGDAE,A=440Hz)ですが横板を若干高くしチェロとヴィオラの間の子ような音を作り出しています。






 日本にはもちろんまだプレーヤーはいませんが、もし興味のある方、テノーレもといプロフォンダ奏者になってはみませんか?

haja&Chi工房ではすでにはじまっています。